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Posted by - 2024.04.29,Mon
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Posted by mio - 2012.04.22,Sun
投稿掲示板用。古い話の蔵出しです。

場所:不明
登場人物:イリス(えるみさん)、(カーミル(秋吉さん))、ミロ
---------------
 
 ペースを崩されるとは、まさにこのことだ。
 
 恋人のことになると、彼は度を越して心配性だった。彼女と付き合いはじめてから、毎日一度はなにかしら勝手に心配して内心あわてている気がする。
おいおいそこまで心配するこたねえだろう。彼だって自覚はしている。しているが、やめられなかった。
 
「ねえミロシュさん、聞いてる?」
「あ、え? ごめん」
 
 自分を見上げる恋人に、ミロははっとして視線を戻した。
 
 彼女の首にこれ以上負担をかけまいというほぼ無意識の習性で、ミロは屈んで、自分の頭の位置を彼女の目線に合わせた。
 
「ぼーっとしてた。えーっと、なんだっけ」
「だから、そんなに心配しなくていいのよ?」
「つーと」
「カーミルさん、いい人じゃない」
 
 カーミル、という名を聞いて、ミロは一瞬誰の話か、と首を傾げた。そのまま誰か思い出せなければ良かったのだが、不幸なことに、先程までここにいた水色の髪の男の顔がすぐに脳裏に浮かびあがる。
 途端、ミロの眉間に皺がよった。イリスの前では、あまりしない類の表情だった。
 
「あれのどこがいい人なんだ」
「あら、そうじゃない?たしかに少し変わってるけど」
 
 にこにこ、と彼女はいつもの通り微笑む。心底そう思っているのはよくわかった。
 
「イリスには、そうかぁ、……そうかもな」
 
 ミロは力の抜けた笑いを零した。
 
 
 
 つい先程、ミロはカーミルと一戦を交えたところだった。
 一戦、といっても、ミロを壁と称するあの男は、彼を歯牙にもかけはしない。ミロの存在をほぼ完璧に無視して、イリスを口説くばかりだった。
結果的に、イリスに――無意識の産物ではあるが――あしらわれて、彼は去っていった。イリスの手に接吻を残して。
 
 ああ、苛々する。思い出すもんじゃなかった。恋人の耳には聞こえないように、口の中で悪態をつく。
 
 もともとミロは嫉妬深い方ではない。イリスが他の男に靡くような女性ではないこともわかっている。
 ただ、あのカーミルという男に関しては、何から何まで気にくわなかった。もはや本能的に、あのいけ好かない修辞に満ち満ちた言葉に拒否反応を示さずにはいられないのだ。
どんな大層な家の出かはしらないが、動作につけ言動につけ、仰々しいにも程がある。だいたい、あからさまに自分の恋人を口説きにかかる男に友好的でいられる男など、いるのだろうか、いや、いない。
いたとしても、そんな男は認めない。そもそも、どんな女に対しても口説きにかかれることが理解できない。
 さらに、イリスの手に口づけたという行動が最も気に食わなかった。
 
 いつのまにか、酷く不機嫌な顔になっていたらしい。イリスがミロに向ける視線は、疑問符だらけになっていた。
 
「もう、カーミルさんのことになるといつも不機嫌ね」
「やっぱりわかる?」
「うん。でもどうして?」
「馬が合わないって、いうだろ」
 
 肩を竦めて見せれば、あんまり悪い態度ばかりとっちゃ駄目よ、といつものごとく窘められる。ミロは素直に謝った。だが、いくら彼女の頼みであっても、ついぞこのことに関しては態度を改められる気がしなかった。
 イリスにはなぜミロがそこまで彼を敵視するのか本当にわからないのだろう。
 それもそのはずだ。彼女には、あの男に口説かれている自覚がないのだろうから。そのお陰で、ミロは心配性にならずにはいられないのだが……思わず、ため息が漏れる。
 
「あれ、疲れた? もしかして最近お仕事、大変?」
 
若干的を外した心配をしてくれながら、イリスはにこにこと笑う。その笑顔を見て、ミロはようやく眉間の皺を解き、星読みの仕事ほどじゃないさ、と笑い返した。
 
 
「……なあ、イリス」
「はい?」
「一個だけお願いだ」
「何?」
「手に接吻、あれは無しだ。あいつに限らず駄目だ」
「え?」
 
 彼女がきょとん、とする。
 まあそれはそうだろうが、これだけは譲りたくない。
 
「あれは、俺だけ。な?」
 
 だってその仕草は、ミロの育った土地において、特定の意味をもつ行動なのだから。
 よくわからないけど、といいながらも頷いたイリスをみて、ミロは満足げに頷き、イリスの手をとった。
 

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