やりたかったこと放置しまくったままだぜ/(^o^)\
医者の詳細頁にこっそりのせたNPCのために小説だけおいていきます。そのうちhtmlとかちゃんとまとめたい/(^o^)\
Nasatoさんありがとうございました。
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寒いな、と粗末な外套を掻き合わせながら、男は欠伸を噛み殺した。
月が高い。まだ交代の時間は遠かった。
彼は目の前の「商品」を一瞥する。皆、疲れ果てた様子で身動きしない。上々だ。
先程、珍しく抵抗するから叩きのめした奴も、ぴくりともしない。死んではいないはずだから上からお咎めをうけることもないだろう。横ですすり泣いていた餓鬼を怒鳴りつけたら、そいつもぴたりと静かになった。
人買い。それが彼が片棒をかつぐ仕事だった。
あまり人聞きの良い商売をしていない連中ばかりの集まる地域だ。彼をとやかく言うものなどいない。彼にしてみれば、奴隷を見張るだけで日銭が稼げるのだから、楽な仕事だった。ただ、夜の楽しみがご無沙汰なだけである。金がなければ酒も飲めないのだ、選択肢はなかった。
がたん、と背後で音がした。護衛の習性ではっとみやる。
飛び出したのは随分大きな鼠だった。
「なんでい、おどかしやがって」
一息ついて、振り返る。目をみはった。先程までそこに倒れていた商品の姿がない。同時に、がつんと重い一撃が脳天を襲った。暗がりからの一撃に、見張りの男はなす術もなかった。
昏倒する男のそばを大柄な人影が走りぬけ、夜の闇に溶けていく。しかしそれをみていたのは、がたがた震える他の商品たちだけだ。
一夜にして仕事を失うことになる男は、なにが起きたかも分からずに、地面に昏倒していた。
***
「ミロさんー!ミロさーん!」
呼び声が、急速に近づいてくる。
振り返ると、いつも溌剌とした見習いの少女が、慌てた顔をしてこちらに駆け込んできた。
「どうしたんだ、嬢ちゃん?」
勢いあまったヌールが、ミロにぶつかりこんでくる。かたや護衛の大男、かたや見習いのうら若き乙女である。その体格差に、ぶつかられたミロではなくて、ぶつかったヌールの方が弾きとばされる結果になった。
ミロは咄嗟にヌールの腕を掴んで、彼女の転倒を阻んだ。
「おいおいどうしたぁ?」
「ちょ、ちょっと、こっちきて!手伝って!けがした人が倒れてるの!」
息せきってヌールが述べる。まあ、と、ミロの隣にいたイリスが目を丸くした。
ミロは思わず、溜息をついた。せっかく非番の一日を恋人と過ごそうと思った日に限って、これだ。
しかし、そんな都合をヌールは知らない。
「護衛さんでもなきゃ動かせないよ!おっきい人なんだもん!」
「なんだ、隊商の奴なのか?」
「え、違うと思うけど!すごい怪我なの!」
まくしたてるヌールの剣幕に、ミロは肩を竦めた。
「わーったわーった、いくよ」
ほっとけそんなん、などという本音は口が裂けても言えない。なにせイリスが横にいるのだから。
「わりぃイリス、終わったら迎えにいくから、隊商宿で待っててくれるか?」
「うん」
愛らしい恋人は、わかったと微笑んだ。
「気をつけてねミロシュさん」
その言葉にミロの顔がおもわず緩む。さっさと用事をすませなければ。
「じゃ、いくよミロさん!すぐそこなんだけどっ」
言いながらも、既にヌールは走り出している。ミロは見失わないようにと、すばしっこい少女を追った。
***
ヌールが入り込んだのは、隊商宿のすぐ近くの路地裏だった。
そもそも何でこんなところに来たのかと問うと、ちょっと探検してただけ、と真面目な声で返された。
「あ、ミロ、ほら、あの人!」
言われた奥に目をやる。薄汚れた外套につつまれた人影が、壁に凭れていた。体型からして男だろう。近寄って、呼びかける。意識はないようだ。
「あー、こりゃそうとうやられてんなあ」
刀傷の入った男の顔は、ひどく殴られた様子だった。この様子では、全身やられているだろう。内臓をやられているとなれば、早く医者にみせないと命に関わるかもしれない。
「これ、かかわっちまっていいのか?」
恋人がいなくなったとたん、ミロは本音をこぼす。面倒なことは好きじゃない、とりあえずはやくイリスのところに戻りたかった。
「そりゃそうでしょっ」
「うちの隊商の奴でもねえんだぜ、どーすんだ、変なごろつきだったら」
「どーもこーも、もしこのひとが普通の人で、ほっといて死んじゃったらやばいでしょ!」
「たしかに、そうだけどなぁ……ま、アーリクのとこならいいか」
この男を助けないことには、ヌールは開放してくれないだろう。またひとつ溜息をついて、ミロは慎重に男を抱えあげる。彼よりは頭一つ小さいが、それでも大柄な部類に入るし、重い。
もちあげた拍子に、彼が被っていたクフィーヤが地に落ちた。現れたのは、随分くすんだ金髪だった。
「ほらぁ、急いで戻るよ!」
ヌールがまた駆けていく。本当に元気な少女だ。
「おいおい、これ抱えては流石に走れねえって……」
言葉のわりによろめくこともなく、ミロは早足にヌールを追って隊商宿に向かった。
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