1にかけ、ですが、作品内でイリス@えるみさん、ヌール@春乃さん、ジョフロア@汐越さん、ポストーチ@ホシラさんお借りしています。ありがとうございます。
「おいアーリク、いるか?」
隊商の医師が簡易医務室を設ける部屋には、ミロの目当ての医者の姿はなかった。
かわりに、彼の助手をしている青年が、机の前に座ってなにか書き物をしていた。
「ああミロさん、先生はいま……って、どうしたんですか、その人」
顔を上げた彼は、肩に男をかついだミロの姿に驚いてみせた。ミロはよお、と、うまくバランスをとりつつ、空いた右手で挨拶をした。
「ジョフィーじゃん。怪我人拾ったんだ、ちょっとみてやってくんねえか」
「ジョフロアです。わかりました」
律儀に名前を訂正してから、逞しい体格の青年医師は、自分よりやや大柄な男をミロから受け取り、軽々と寝台にのせた。なるほど、非力なアーリクの助手にはうってつけである。
「いったいどこで拾ったんですか?」
診察の準備をしながら、ジョフロアが問う。
「ヌールが探検中にみつけたんだとよ。俺は運んできただけ」
ちなみに真の発見者であるヌールはここにはいない。彼女には、ミロがイリスに言付けを頼んだのだ。
はあ、と呟き、ジョフロアが治療道具をひろげる。彼が怪我人の診察する様子を、ミロは眺めていた。
さっさと恋人のところにいきたいものの、かかわったからにはそこまで薄情にもなれないミロだった。
***
さほどせずに男には処置がなされ、包帯だらけになっていた。
「で、大丈夫そうか?」
「全身打撲…骨にひびが入っているかもしれませんね。ただ、命に別状はないと思います。一応、先生にもう一度診察していただいた方がいいかもしれませんが」
「そりゃよかった。手遅れです、なんてなったら、夢見が悪ぃからな」
不謹慎な発言に、ジョフロアの眉間に常駐する皺が些か深くなった。
「何をしている、ミロ」
背後から、馴染みのある声がした。振り返れば、そもそも治療を頼もうとしていた医者が立っていた。
「よ、アーリク」
「先生お帰りなさい」
ああ、と助手に答えてから、アーリクは冷たくミロを見上げた。
「なんだ、イリスを怒らせて鼻の骨でも折ったか?」
「馬鹿あいつがそんなことするわけねえだろ」
「知っている、冗談だ」
笑顔ひとつ浮かべず、アーリクはしれっとそう述べた。
「怪我したのは俺じゃなくて、拾ったおっさん」
「拾った?」
またわけのわからないことを、と、アーリクが寝台に近寄った。そして、怪我人の顔をみるなり硬直した。
「……セリョーシカ?」
「え?」
飛び出た聞き慣れない単語に、ミロが思わず聞き返す。アーリクにはそれが届いていないようで、呆然と男を見下ろしている。
「セリョーシカ……セリョーシカなのか?」
「……先生?」
ジョフロアも、常ならぬアーリクの様子を怪訝に思い、声をかけた。しかし、やはり返事はない。
アーリクは、二人にわからない言葉でもう一度男によびかけた。ジョフロアが男に意識のないことを告げると、アーリクはそうか、と呟き、一拍おいて顔をあげた。
傍目から見たら、アーリクはいつも通りの無表情だ。だが付き合いの長いミロは、彼がひどく動揺していることを感じとった。
「処置は終わりました。全身酷い打撲で、骨折の可能性がありますが、命に別状はないと、思います。一応、確認をお願いします」
「わかった」
ジョフロアの説明に、アーリクはゆっくりと頷き、男の診察を始めた。
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