caravan活動記録と雑記。
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Posted by mio - 2011.04.04,Mon
グーリャ視点小咄
欝いかも
欝いかも
雨が降り、雪に覆われる、そんな陰鬱な天候が恋しい。そんなことが私にもある。
すでに長い年月をこの地に生きているが、時折、この日照りが煩わしくて仕方がない。まとわりつく砂が気持ち悪くて、顔を擦る。もう消えることはないだろう、大きな傷の存在を手の甲に感じた。
天気がなんだ。未だに生きながらえ、こうして主と再会できたことを神--水の女神に感謝しようではないか。そう思い直して、私は視界に入ってきた我々の天幕へ近づいた。
「こら、やめなさい」
「なんでー?」
天幕に近づくと、常らしからぬ慌てた声と、いつもののんきな声が聞こえてきた。またあの子の我が儘か。私は急いで天幕に飛び込んだ。
「ナースチャ!」
「あ、グーリャ、おかえりなさぁい!」
天幕の中では、あろうことか主が、ジンの少女に思いっきり頬を引っ張られていた。吹き出さなかったことを、私は内心神に感謝した。
主が、遅い、とでもいうように視線で私を非難する。
「何をしているん、ナースチャ……」
後ろから彼女を抱え、主から引きはがす。少女は抵抗したが、流石に私の力にはかなわなかった。
「ポチせんせがしてること、ナースチャもしてただけだよお」
「は?」
「端的にいうと、笑え、とせがまれた」
ふう、と、主が嘆息する。小さい子供の力でとはいえ、些か痛かったようだ。つままれていた頬を軽く揉んでいた。
「ナースチャ、旦那様に失礼なことをしてはいけない」
「だってえ、だんなさま、全然笑ってくれないんだもの」
しゅんとしたナースチャが、唇を尖らせる。
「無理なことを人に強いてはいけない、旦那様はお顔こそ笑われないが、お優しいだろう」
「笑ったお顔がみたいの!」
今にも泣き出しそうな様子で、ナースチャは私に向かって叫んだ。主が、困ったものだ、と、目で私に伝えた。
主が笑えない理由は、熟知している。あの日、奥方になるはずだった方が亡くなられてから、彼の笑顔は失われたのだ。その場に居合わせた私は、だからこそ、彼女にはなにも言えなかった。
「ナースチャ……」
何か言葉を紡ごうとした私を制して、主がナースチャの頭を撫でた。きょとんとしたナースチャの身体を、私の腕から主が抱き上げる。
「すまないなだがお前が私の頬をつまんでも、私は笑えないんだ」
「だんなさま、びょうきなの?」
「それに近いな」
「かわいそう……」
ひくっ、と、主の頬が動いた。
笑いたいのがやまやまなのがわかる。だが、彼の頬が正常に緩むことはない。これだけ心が癒えてきたというのに、いまだに主の顔は、笑えないままだった。
「いつか病気が治ったら、いくらでも笑ってやる、それまではいい子にしていられるか?」
「うん」
ぺたり、と、少女の両手が主の頬にあてられる。今度は無理につまむこともなく、ただ優しく手をあてるだけだった。
「ごめんなさい」
「わかればいい」
主がナースチャを抱き下ろす。グーリャと外で遊んできなさいという言葉に、少女は大人しく従い、私の手を握った。
「すこしお前に任せる」
「心得ました」
ナースチャをつれ外にでる際、ふと私は主の顔を覗き見た。
動かぬ表情はかわらない。だがその目が、ひどく優しく少女を見ていた。いや、どこか遠くを見ていた。
主のお子が生きていればこのくらいの歳になっていることを、ふと私は思い出した。
すでに長い年月をこの地に生きているが、時折、この日照りが煩わしくて仕方がない。まとわりつく砂が気持ち悪くて、顔を擦る。もう消えることはないだろう、大きな傷の存在を手の甲に感じた。
天気がなんだ。未だに生きながらえ、こうして主と再会できたことを神--水の女神に感謝しようではないか。そう思い直して、私は視界に入ってきた我々の天幕へ近づいた。
「こら、やめなさい」
「なんでー?」
天幕に近づくと、常らしからぬ慌てた声と、いつもののんきな声が聞こえてきた。またあの子の我が儘か。私は急いで天幕に飛び込んだ。
「ナースチャ!」
「あ、グーリャ、おかえりなさぁい!」
天幕の中では、あろうことか主が、ジンの少女に思いっきり頬を引っ張られていた。吹き出さなかったことを、私は内心神に感謝した。
主が、遅い、とでもいうように視線で私を非難する。
「何をしているん、ナースチャ……」
後ろから彼女を抱え、主から引きはがす。少女は抵抗したが、流石に私の力にはかなわなかった。
「ポチせんせがしてること、ナースチャもしてただけだよお」
「は?」
「端的にいうと、笑え、とせがまれた」
ふう、と、主が嘆息する。小さい子供の力でとはいえ、些か痛かったようだ。つままれていた頬を軽く揉んでいた。
「ナースチャ、旦那様に失礼なことをしてはいけない」
「だってえ、だんなさま、全然笑ってくれないんだもの」
しゅんとしたナースチャが、唇を尖らせる。
「無理なことを人に強いてはいけない、旦那様はお顔こそ笑われないが、お優しいだろう」
「笑ったお顔がみたいの!」
今にも泣き出しそうな様子で、ナースチャは私に向かって叫んだ。主が、困ったものだ、と、目で私に伝えた。
主が笑えない理由は、熟知している。あの日、奥方になるはずだった方が亡くなられてから、彼の笑顔は失われたのだ。その場に居合わせた私は、だからこそ、彼女にはなにも言えなかった。
「ナースチャ……」
何か言葉を紡ごうとした私を制して、主がナースチャの頭を撫でた。きょとんとしたナースチャの身体を、私の腕から主が抱き上げる。
「すまないなだがお前が私の頬をつまんでも、私は笑えないんだ」
「だんなさま、びょうきなの?」
「それに近いな」
「かわいそう……」
ひくっ、と、主の頬が動いた。
笑いたいのがやまやまなのがわかる。だが、彼の頬が正常に緩むことはない。これだけ心が癒えてきたというのに、いまだに主の顔は、笑えないままだった。
「いつか病気が治ったら、いくらでも笑ってやる、それまではいい子にしていられるか?」
「うん」
ぺたり、と、少女の両手が主の頬にあてられる。今度は無理につまむこともなく、ただ優しく手をあてるだけだった。
「ごめんなさい」
「わかればいい」
主がナースチャを抱き下ろす。グーリャと外で遊んできなさいという言葉に、少女は大人しく従い、私の手を握った。
「すこしお前に任せる」
「心得ました」
ナースチャをつれ外にでる際、ふと私は主の顔を覗き見た。
動かぬ表情はかわらない。だがその目が、ひどく優しく少女を見ていた。いや、どこか遠くを見ていた。
主のお子が生きていればこのくらいの歳になっていることを、ふと私は思い出した。
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