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caravan活動記録と雑記。 登録キャラ詳細はプロフィール欄リンクよりご覧ください。
Posted by - 2024.05.14,Tue
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Posted by mio - 2011.05.22,Sun
名簿更新申請ついでに。

医者のNPC相関に変更があります。Nasatoさんありがとう!




海が見たい。少女にそうせがまれ、男は彼女を連れて海辺を歩いていた。
夕暮れの海風は心地が良かった。日避けに被っている布が時折ばたばたとはためくことはあるが、目が開けられないほどではない。日中は耐えられない日差しも、このくらい陰っていれば許容範囲だ。

初めて見る海に、少女は大はしゃぎだった。男はその様を眺めながら、時折海の向こうに目をやった。水平線の向こうには、なにも見えない。

不意に少女がたちどまり、一点をみやる。男もそれにならって視線をうごかす。
それは、波打際で仲睦まじく遊ぶ親子の姿だった。

ふとしたものだった。
男は、目の前で死んでいった女を思い出した。
男は、生まれることなく死んでいった我が子を思い出した。
彼等も海を知らなかった。

目の前に生きている少女に焦点を戻す。

彼女の面倒をみているのは成り行きだった。再会した従僕が、どこかで助けて連れてきた子だ。

男は子供の扱いが苦手だ。しかし、不思議と彼女をどこかの街においていこうなどという気が起きなかった。いや、はじめはそのつもりだったはずなのだが、いつのまにかそんな考えは消え去っていた。自分に懐いて甘えて来る少女に戸惑うことこそあれ、それに応じる事自体は嫌ではなかったのだ。不思議な心境の変化は、悪いものではなかった。

自問する。今、もし自分の子が生きていたなら、この子ぐらいに育っていただろう。この感情はそのためうまれたものなのだろうか?この子のことを、勝手に代替品として扱っているとでもいうのか?

自答する。否。そんなことをしては、黄泉の国から怒りを買う。あの優しかった女の怒りだけは、男は決して買いたくないのだ。

立ちすくんだままの少女に、そっと話しかける。
「ナースチャ、どうした?」

男は足を止め、少女の目線にあわせてしゃがみ込んだ。子供と話す時は背丈をあわせて話してやると良い、そう誰かに聞いて以来、男はそうするように努めていた。
のぞきこんだ少女の顔はいまにも泣きだしそうだった。

「……親をおもいだしたのか?」

しょんぼりとした声で、少女が首を横にふった。

「そんなのいない。ナースチャ、グーリャに会うまで、ずっとひとりだったから」

ジンであるからだろうか。彼女に親の記憶はないという。そもそも人とは根本が違う存在だ。出生も、女の腹から生まれるとも限らないらしい。そんな彼女が親の存在を求めているのは不思議な現象にもおもえたが、神秘学や心理学は男の専門ではない。人の中で生きている彼女がそう思うようになったのは、至極まっとうなことなのだろう。

少女の大きな瞳から、ぽろりと涙がこぼれる。思わず頭を撫でてやる。そして口が勝手に開いていた。

「親が欲しいか、ナスターシャ」
「うん」
こくりと大きく首が揺れる。無理だとわかっていても、少女は素直だった。

「では、私の子になるか?」
「え?」
少女は、突然のことに驚いたのか、きょとんとした顔で無表情のままの男をみつめた。実は男自身が、飛び出した自分の言葉に驚いていた。

「だんなさまが、ナースチャのおとうさんになるの?」
「思い付きだ。お前が、嫌でなければ、だが、娘に迎えたいと思う」

正直に言う。
ああ、こういうときに、優しい顔をしてやれたらいいのに。次の言葉を紡げずにいる男に、少女は万遍の笑みをうかべてみせた。

「なる!ナースチャ、だんなさまの子供!」

勢いよく、少女は男に飛びついた。重さを感じない身体とはいえ、その勢いに不安定だった体勢を崩した男は、そのまま砂に転がった。

「あ、ごめんなさい」

男の上で少女が慌てる。

「まったく、元気なことだ」

あきれたこえに、少女がまた謝った。

「だんなさま、いたかった?」
「いや、まったく」

上体をおこす。ぱらぱらと砂が落ちていく。

「しかしその旦那様というのは、あれだな。娘に呼ばれるとしては、不思議だ」
「じゃあ、なんてよべばいいの?」

問われてやや困る。そして幼少の頃、自らの父をどう呼んでいたのかを伝えた。

「いや、アーリクと呼んでくれても構わないのだが」
やけに気恥ずかしくすぐにそう訂正したが、娘はひとつめの提案を気に入ったらしい。
「パーパ!」
自らを父とよび、またぎゅっと抱き着いてきた小さな身体。男は彼女を、そっと抱き上げた。

以前守れなかったものがあった。今度は守り通すことができるだろうか?
ああ、親子ごっこなど、傍目からみたら滑稽な茶番なのかもしれない。
それでも彼女は笑っていた。この笑顔くらい、守ってやりたかった。

「不祥の父だが、よろしく頼む」
娘の身体は暖かく、男は自分の申し出は間違っていないと一人うなづいた。

「ああ、こんど、『母』も紹介してやらなければいけないな」
「マーマ?」

君はもちろん、良いと言ってくれるだろう?
そう無言のまま問い掛けると、あたりまえよと幻聴が答えた。脳裏に浮かんだその表情は、彼が愛したままの笑顔を湛えていた。彼女が消えたあの日から、いままでずっと思い出すことのできないでいた、生涯愛すと誓った美しい微笑みだった。

ああ、やっと笑ってくれたね、愛しい人。

「パーパ!」
「なんだ?」
「今笑った!」

ほんの少しだけ。だがたしかに男の顔に浮かんだ微笑みに、少女は更なる万遍の笑みを浮かべた。


服に紛れ込む砂も、今の彼には気にならなかった。

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