caravan活動記録と雑記。
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Posted by mio - 2011.09.06,Tue
あちらこちらでお怪我をしていたムハンナド@Nasatoさんをお見舞いにいこうとおもったらどうしてこうなった。
最近一人称に逃げてしまっていけねぇなあ、いけねえよぉ。
最近一人称に逃げてしまっていけねぇなあ、いけねえよぉ。
その日、俺はふらりと医者が詰めている部屋に向かった。怪我をしたわけじゃない、手持ちの包帯が切れていたからだ。
中に入るとアーリクが一人何かを読んでいた。いつもの小難しい医学書かと思えば、子供向けの学習本のようだった。なるほど、娘へ読み聞かせるための予習ということらしい。涙ぐましい努力である。俺もガキが出来たらこうなるんだろうか。有り得ないとは言い切れない。
彼は一瞬俺を見たが、すぐに視線を本に戻した。俺のことは、患者ではないと見なしたようである。たしかにそうだし、いつものこととはいえ、結構な扱いじゃねえかよ。
「よお」
「何の用立てだ?」
「包帯貰えねえ?」
またか、とか、自分で買いに行けと呟きながらも、アーリクは包帯の在処を視線で示した。俺は自分でその棚を探って、一巻き拝借した。
ふと思い出す。絶対安静を喰らっている知人のことをだ。
「そういえばあいつまだいんの?」
「奥だ。見舞ってやるといい」
旧知の医者が示した奥には、診察室から続く部屋があった。覗きこめばいくつかの空の寝台があり、その一つに大柄な男が横たわっていた。
ムハンナドだ。俺が近づくと、彼は上体を起こして見せる。嫌そうな顔をされたのは、気のせいでもなさそうだ。
「起こしたか?」
ナドは軽く首を横に振った。
「いや。何の用だ」
「あんたの見舞いだよ、怪我人さん」
まあついでだけどな、と茶化してやると、ならば来るな渋い声が返ってきた。
顔色は前より良いし、ぐるぐる身体中に巻かれていた包帯の量も減っているようだ。順調に治っているといっていいんだろう。
「ちったぁ良くなったみたいだな?」
返事はないが、構いはしない。彼としては、ここにいるのが嫌なのだろうと思ったが、仕方の無い話である。
こいつの怪我は、死んでもおかしくない傷だった。そのうえでこの前の「あれ」だ。大怪我をしておいて、完治前にあんなことをされちゃあ、医者連中としても、今度こそこいつにはしばらく大人しくしていてもらわないと困る、というところだろう。お陰でここ最近、こいつはこの寝台の上で腐ってる、というわけだ。
「まったくまあなんであんなことしたんだか」
正直な感想を漏らす。するとムハンナドの奴は、本当に小さな声で、ぽつりと呟いた。
「……別に死んでも構わなかった」
「は?……ははっ、何言ってんだあんた」
一瞬理解ができなかった。それから、俺は思わず笑ってしまった。何がおかしい、と凄まれるかと思いきや、こいつは暗い顔のまま黙りこくる。なんだこいつは。
「おいおいナドよ、あんたには、故郷で可愛い妹が待ってんじゃなかったのか」
「俺が死んでも、彼女には保証が入る」
「……は?」
少しばかり、いや、まったくこいつは予想外のことだったもんだから、俺は言葉を失った。
「冗談にしちゃつまんねえぞ」
「俺がいなくなっても、あの子が独りになるわけではない、大丈夫だろう」
「……おいおい、寝込みすぎて頭腐っちまったか?」
この一連の騒ぎのなかで、自分は死んでもかまわなかった。こいつは本気でそう言っているらしい。
何があったかしらねえが、その考え方は俺の理解の範疇外のことだった。理解不能だ。
俺にはこんな考え、浮かぶわけもなかった。いままでの人生で一言でもそんなことを漏らしていたら、俺はあの兄貴に、じゃあさっさと死ねとばかりに消されていただろう。笑えない冗談だ。(本当だ、まったく冗談じゃねえ。)
「彼は些か怪我が多すぎるな」
この間アーリクがもらした言葉がよぎった。たしかにそうだった。これだけ腕がたつのに、普段はひどくすきのない動きをするくせに、ナドは時折、やけに危うい時がある。そう、ごくたまに、ひどく捨て身になるんだ、この男は。
護衛業はそりゃあ危険をともなう職だ。俺だって酷い怪我をしたことはあるし、そのときの腹の傷は今も消えやしない。だが、だからこそ、死んでもいいなんて思ったことはない。
「ナドよ、こりゃ受け売りだがな、てめぇを大事にできねえ奴は、他人も大事にできねえっていうぜ」
ナドが眉間のシワを深めながらもこちらをみる。もったいねえ。せっかく腕も立つっていうのに。こんなに馬鹿なこと考える奴だったとは。
「考えてみろよ、いくら銭が入ったって、他の親族がいたってよ、あんたのそれだけ可愛がってる妹が、あんたがのたれ死んで悲しまねえとおもうか?聡くて優しい良い子だっつって自慢してたのはあんただろ」
ちょっとばかり、緑の髪が思考を横切った。こいつが死んだら、兄貴の帰りを待ってる妹でなくとも、あの子もきっと悲しむだろう。実際そんなことになりかけて、あの子は本当にへこたれていたんだから。泣いてる女の子に声をかけるなんて俺らしくもなかったが(これで俺は割に薄情だ、自覚はある)、どうにも放っておけなかった。昔だったらそんな洒落た真似はしなかっただろう。
変わった理由など、一つしか見受けられない。大事な女ができたということが、俺に細かい変化をたくさんもたらしていることは、有り難いことに自覚している。
「多分あんたは、大事なもののためにならあっさり死ねる男なんだろうな」
こいつは、あの子を庇って死にかけた。そのことを暗に示してみる。ナドの表情は変わらない。
さて、こいつは気づいてねえのか素直じゃねえのか?この様じゃあきっと後者だ。つまるところ、こいつは不器用の極みだというこったろう。
「俺は違うな。いつ死んでもいいなんて思って、こんな仕事してねえよ」
俺は足掻く。大事なものを守ったって、そいつを悲しませるようなことはしたくないからだ。もしもの事態を想定するより、そんなもの未然に防いでやる。その為だったら、少しくらい格好悪く見えてもやむを得ない。嫁にきてくれって頼んだ女が泣くような真似、できるかっつの。できるわけがねえ、それこそよっぽど格好悪い。
「他の奴はどうかしらねえが、俺は女の悲しむ顔は見たくねえよ。イリスにしろ、お袋にしろ、妹にしろな」
俺の言いたいことが伝わったかどうか。ナドが嫌そうな顔をする。バツが悪そうともいえる表情だ。やっぱり、気づいてないわけでもなさそうだ。だが、伝える気もないのだろう。ここまで根暗な野郎だったとは、驚きである。
「言いたいことはそれだけか」
「おい、説教だと思うなよ?俺みてえな奴もいるってこと。あんたも死に急ぐこたねえって言いたいだけだぜ」
「……黙れ」
突如、ふつりとナドの怒りが膨れるのが視覚できるようだった。
「知ったような口を利くな!」
「だから、んなつもりはねえって」
俺を睨む奴の目が燃えている。まずいことを言ったのは間違いなさそうだ。
「俺はどうせ死に損ないなんだ。今更死に急ぐも何もあるか!」
「死に損ないってあんたなあ」
「お前に分かってたまるか、――っ」
ナドが不意に呻いた。拳が震えている。癪に障ってこちらを殴りたかったというところなんだろうが、流石にそれは堪えたらしい。おかげで傷に障ったようだが、俺はまあどれだけこいつの痛いところを突いちまったんだろうか。
昔何かあったのかもしれない。少しだけ後悔したが、言っちまったからにはしかたないし、謝る気はない。
「傷開くぞおい」
気遣いでかけた言葉のつもりだったが、返答は厳しい睨み一つだった。苦笑したら、今度こそ喧嘩を売っているととられちまったらしい。ナドがまた怒気を吐こうとした。
「いい加減にしておけ」
不意にアーリクが部屋に入ってきて、こちらにつかつかと歩み寄ってきた。どけ、と目線で示すから、俺は寝台からはなれ、彼に場所をゆずった。ムハンナドも流石に、何も言わなかった。
「馬鹿かお前は、見舞いに来ておいて怪我人を興奮させるな」
「ごもっともだが、俺は悪くねえぞ」
「御託は結構、私にとっては患者の安静が重要だ。お前の言い分など知らん」
いいから帰れとお医者先生が言うものだから、俺は踵を返して薬品臭い部屋を後にした。アーリクが何やら小言をぶつけているのが小さく聞こえたが、あいつには効きゃしないだろう。
治ったら、酒でも奢ってやろうか、いや、あいつの場合は茶か、酒なんて奢ったら、余計に怒られそうだ。
下の根も乾かぬうちにそんなことを考えている俺は、やっぱり薄情者なのかもしれない。
中に入るとアーリクが一人何かを読んでいた。いつもの小難しい医学書かと思えば、子供向けの学習本のようだった。なるほど、娘へ読み聞かせるための予習ということらしい。涙ぐましい努力である。俺もガキが出来たらこうなるんだろうか。有り得ないとは言い切れない。
彼は一瞬俺を見たが、すぐに視線を本に戻した。俺のことは、患者ではないと見なしたようである。たしかにそうだし、いつものこととはいえ、結構な扱いじゃねえかよ。
「よお」
「何の用立てだ?」
「包帯貰えねえ?」
またか、とか、自分で買いに行けと呟きながらも、アーリクは包帯の在処を視線で示した。俺は自分でその棚を探って、一巻き拝借した。
ふと思い出す。絶対安静を喰らっている知人のことをだ。
「そういえばあいつまだいんの?」
「奥だ。見舞ってやるといい」
旧知の医者が示した奥には、診察室から続く部屋があった。覗きこめばいくつかの空の寝台があり、その一つに大柄な男が横たわっていた。
ムハンナドだ。俺が近づくと、彼は上体を起こして見せる。嫌そうな顔をされたのは、気のせいでもなさそうだ。
「起こしたか?」
ナドは軽く首を横に振った。
「いや。何の用だ」
「あんたの見舞いだよ、怪我人さん」
まあついでだけどな、と茶化してやると、ならば来るな渋い声が返ってきた。
顔色は前より良いし、ぐるぐる身体中に巻かれていた包帯の量も減っているようだ。順調に治っているといっていいんだろう。
「ちったぁ良くなったみたいだな?」
返事はないが、構いはしない。彼としては、ここにいるのが嫌なのだろうと思ったが、仕方の無い話である。
こいつの怪我は、死んでもおかしくない傷だった。そのうえでこの前の「あれ」だ。大怪我をしておいて、完治前にあんなことをされちゃあ、医者連中としても、今度こそこいつにはしばらく大人しくしていてもらわないと困る、というところだろう。お陰でここ最近、こいつはこの寝台の上で腐ってる、というわけだ。
「まったくまあなんであんなことしたんだか」
正直な感想を漏らす。するとムハンナドの奴は、本当に小さな声で、ぽつりと呟いた。
「……別に死んでも構わなかった」
「は?……ははっ、何言ってんだあんた」
一瞬理解ができなかった。それから、俺は思わず笑ってしまった。何がおかしい、と凄まれるかと思いきや、こいつは暗い顔のまま黙りこくる。なんだこいつは。
「おいおいナドよ、あんたには、故郷で可愛い妹が待ってんじゃなかったのか」
「俺が死んでも、彼女には保証が入る」
「……は?」
少しばかり、いや、まったくこいつは予想外のことだったもんだから、俺は言葉を失った。
「冗談にしちゃつまんねえぞ」
「俺がいなくなっても、あの子が独りになるわけではない、大丈夫だろう」
「……おいおい、寝込みすぎて頭腐っちまったか?」
この一連の騒ぎのなかで、自分は死んでもかまわなかった。こいつは本気でそう言っているらしい。
何があったかしらねえが、その考え方は俺の理解の範疇外のことだった。理解不能だ。
俺にはこんな考え、浮かぶわけもなかった。いままでの人生で一言でもそんなことを漏らしていたら、俺はあの兄貴に、じゃあさっさと死ねとばかりに消されていただろう。笑えない冗談だ。(本当だ、まったく冗談じゃねえ。)
「彼は些か怪我が多すぎるな」
この間アーリクがもらした言葉がよぎった。たしかにそうだった。これだけ腕がたつのに、普段はひどくすきのない動きをするくせに、ナドは時折、やけに危うい時がある。そう、ごくたまに、ひどく捨て身になるんだ、この男は。
護衛業はそりゃあ危険をともなう職だ。俺だって酷い怪我をしたことはあるし、そのときの腹の傷は今も消えやしない。だが、だからこそ、死んでもいいなんて思ったことはない。
「ナドよ、こりゃ受け売りだがな、てめぇを大事にできねえ奴は、他人も大事にできねえっていうぜ」
ナドが眉間のシワを深めながらもこちらをみる。もったいねえ。せっかく腕も立つっていうのに。こんなに馬鹿なこと考える奴だったとは。
「考えてみろよ、いくら銭が入ったって、他の親族がいたってよ、あんたのそれだけ可愛がってる妹が、あんたがのたれ死んで悲しまねえとおもうか?聡くて優しい良い子だっつって自慢してたのはあんただろ」
ちょっとばかり、緑の髪が思考を横切った。こいつが死んだら、兄貴の帰りを待ってる妹でなくとも、あの子もきっと悲しむだろう。実際そんなことになりかけて、あの子は本当にへこたれていたんだから。泣いてる女の子に声をかけるなんて俺らしくもなかったが(これで俺は割に薄情だ、自覚はある)、どうにも放っておけなかった。昔だったらそんな洒落た真似はしなかっただろう。
変わった理由など、一つしか見受けられない。大事な女ができたということが、俺に細かい変化をたくさんもたらしていることは、有り難いことに自覚している。
「多分あんたは、大事なもののためにならあっさり死ねる男なんだろうな」
こいつは、あの子を庇って死にかけた。そのことを暗に示してみる。ナドの表情は変わらない。
さて、こいつは気づいてねえのか素直じゃねえのか?この様じゃあきっと後者だ。つまるところ、こいつは不器用の極みだというこったろう。
「俺は違うな。いつ死んでもいいなんて思って、こんな仕事してねえよ」
俺は足掻く。大事なものを守ったって、そいつを悲しませるようなことはしたくないからだ。もしもの事態を想定するより、そんなもの未然に防いでやる。その為だったら、少しくらい格好悪く見えてもやむを得ない。嫁にきてくれって頼んだ女が泣くような真似、できるかっつの。できるわけがねえ、それこそよっぽど格好悪い。
「他の奴はどうかしらねえが、俺は女の悲しむ顔は見たくねえよ。イリスにしろ、お袋にしろ、妹にしろな」
俺の言いたいことが伝わったかどうか。ナドが嫌そうな顔をする。バツが悪そうともいえる表情だ。やっぱり、気づいてないわけでもなさそうだ。だが、伝える気もないのだろう。ここまで根暗な野郎だったとは、驚きである。
「言いたいことはそれだけか」
「おい、説教だと思うなよ?俺みてえな奴もいるってこと。あんたも死に急ぐこたねえって言いたいだけだぜ」
「……黙れ」
突如、ふつりとナドの怒りが膨れるのが視覚できるようだった。
「知ったような口を利くな!」
「だから、んなつもりはねえって」
俺を睨む奴の目が燃えている。まずいことを言ったのは間違いなさそうだ。
「俺はどうせ死に損ないなんだ。今更死に急ぐも何もあるか!」
「死に損ないってあんたなあ」
「お前に分かってたまるか、――っ」
ナドが不意に呻いた。拳が震えている。癪に障ってこちらを殴りたかったというところなんだろうが、流石にそれは堪えたらしい。おかげで傷に障ったようだが、俺はまあどれだけこいつの痛いところを突いちまったんだろうか。
昔何かあったのかもしれない。少しだけ後悔したが、言っちまったからにはしかたないし、謝る気はない。
「傷開くぞおい」
気遣いでかけた言葉のつもりだったが、返答は厳しい睨み一つだった。苦笑したら、今度こそ喧嘩を売っているととられちまったらしい。ナドがまた怒気を吐こうとした。
「いい加減にしておけ」
不意にアーリクが部屋に入ってきて、こちらにつかつかと歩み寄ってきた。どけ、と目線で示すから、俺は寝台からはなれ、彼に場所をゆずった。ムハンナドも流石に、何も言わなかった。
「馬鹿かお前は、見舞いに来ておいて怪我人を興奮させるな」
「ごもっともだが、俺は悪くねえぞ」
「御託は結構、私にとっては患者の安静が重要だ。お前の言い分など知らん」
いいから帰れとお医者先生が言うものだから、俺は踵を返して薬品臭い部屋を後にした。アーリクが何やら小言をぶつけているのが小さく聞こえたが、あいつには効きゃしないだろう。
治ったら、酒でも奢ってやろうか、いや、あいつの場合は茶か、酒なんて奢ったら、余計に怒られそうだ。
下の根も乾かぬうちにそんなことを考えている俺は、やっぱり薄情者なのかもしれない。
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